結局チカラさんと勉強会を抜け出したあと、チカラさんが持ち出してくれていたモックを食べ、チカラさんに伝言をお願いして、私は帰った。
 正直、みんなに・・・特に、瀬名くんに合わせる顔がなかった。

 だけれどこういうのって、時間がたてばたつほどわからなくなるもので。

 週末が明けた日の朝、私は教室の前で立ち尽くしていた。


(この時間ならまだ勉強に参加してた五人とも、来てないはず・・・。登校してきた人に順に謝ろう。でも堅苦しい謝罪だとかえって気を遣わせるから軽めに・・・こう、「ごめーん☆」みたいな・・・いやさすがに軽すぎか。なら「ごめんごめんwww」・・・も、軽すぎるし・・・)


 一人頭を抱えていると、後ろから声をかけられた。


「あかり」

「っはい!!」

「ふ、何その返事」


 振り返ると、愛架ちゃんが立っていた。


「あ、ま、愛架ちゃん・・・えーっとですね・・・」

「あかり」


 私が謝罪しようとしたところを、遮られる。


「謝るとか、そういうのはいらないから。あんたが元気なとこ見せれば、それでじゅーぶん」

「・・・!」

「友達ってそういうもん」

「・・・そ、そっか・・・!」

「そう」


 クールにそれだけ言って、愛架ちゃんはあたしの手を取って教室へと入る。


「凜、一番あかりのこと心配してたから。そのぶん一番元気な姿見せたげなね」


 去り際、ウィンクを一つの残すと、愛架ちゃんは自分の席に行ってしまった。


(ま、愛架ちゃん・・・!いつも冷静だと思ってたけど・・・こんな、こんなクールビューティーだったの!?)


 ギャップでやられそうになりながら、愛架ちゃんに手を合わせる。


(ありがとう・・・!)


 愛架ちゃんの言う通り、そのあと登校してきたののちゃん、音央ちゃん、そして凜には、謝ることなく、開口一番元気にあいさつした。
 ただ、凜には一番元気に、というアドバイスを実行しようとしたら、力みすぎて声が裏返ってしまったけど。
 でもそのおかげで、凜は心配なんてどこへやら、いつも通りのからっとした笑顔で笑い飛ばしてくれた。

 問題は、瀬名くんだ。
 悩む私を見かねて、凜が話しかけてきた。


「・・・瀬名くんと、うまくやれそう?」

「・・・・んー・・・、わかんない・・・」

「そっかー・・・ま、もうちょっとすれば期末テストだし、テスト終われば冬休みだし。もしダメでももうちょっとすれば会わなくなるんだから、考えすぎちゃダメだよっ?」

「・・・うん、ありがと、凜」

「どーいたしまして!!」


 今日は愛架ちゃんといい凜と言い、いいアドバイスに恵まれる日だ。
 というか、私がいい友達に恵まれたんだ。

 つい顔をほころばせたその時、隣の席が引かれた。


(・・・っ)


 ・・・瀬名くんが、来た・・・!

 私は思わず顔をこわばらせた。
 そして、おそるおそる横を向く。


(・・・・言わなきゃ、言わなきゃ・・・、ごめんって・・・いやでも待って、まずあいさつ・・・?)


 遠慮がちに向けた私の視線と、瀬名くんの視線が交錯する。


「・・・・」


 明らかに、今、明らかに目が合った。


(今・・・、瀬名くんと、目、あったよね・・・?確かにあったはず、なのに・・・)


 あいさつ、されなかった・・・・。

 もちろん、私からすればいいだけの話・・・なんだけど・・・。
 今まで視線が合えば、瀬名くんはすぐににこっと笑って、私の名前を呼んで。
 そして、おはようって言ってくれた。

 いつだって、彼から。

 だけど今日は・・・何も、言わなかった。


(・・・もう、話しかけるな・・・って、こと・・・?)


 その言葉が、私の中に浮かんだ瞬間・・・私はもう、瀬名くんのほうを、向くことすらできなかった。