妻は、事故に遭いました。営業先から会社へ戻る途中で、ハンドル操作を誤った車に、撥ねられたそうです。幸い、怪我自体は比較的軽く、命に別状は無いと言われて俺は心底ホッとしました。ただ……頭を強く打ってしまったようで、なかなか意識は戻りませんでした。
彼女がようやく目を覚ましたのは事故から一週間後でした。医者から連絡をもらい、俺は朝一で病院へ向かいました。病室の扉を開け、彼女の名前を呼びました。彼女は俺の方を振り返って、掠れたような声で言ったんです。
——どちらさまですか?
あの時の気持ち、未だに忘れられないんです。最初は、俺をからかっているんだと思いました。だから言ったんです。何言ってるんだ、俺だよ、って。隼汰だよ、お前の夫だよ、って。だけど、彼女の反応は変わらなかった。俺もムキになって——というか、パニックになって、彼女の肩を掴んで迫ってしまって。そしたら彼女、酷く取り乱して、泣き喚いて。あなたなんか知らない、私には夫なんていない、二度と来ないで、って……。まるで意味がわからなかった。
彼女ね、忘れてしまったんですよ。進藤隼汰という存在だけ。信じられないでしょう? そんなこと」
彼女がようやく目を覚ましたのは事故から一週間後でした。医者から連絡をもらい、俺は朝一で病院へ向かいました。病室の扉を開け、彼女の名前を呼びました。彼女は俺の方を振り返って、掠れたような声で言ったんです。
——どちらさまですか?
あの時の気持ち、未だに忘れられないんです。最初は、俺をからかっているんだと思いました。だから言ったんです。何言ってるんだ、俺だよ、って。隼汰だよ、お前の夫だよ、って。だけど、彼女の反応は変わらなかった。俺もムキになって——というか、パニックになって、彼女の肩を掴んで迫ってしまって。そしたら彼女、酷く取り乱して、泣き喚いて。あなたなんか知らない、私には夫なんていない、二度と来ないで、って……。まるで意味がわからなかった。
彼女ね、忘れてしまったんですよ。進藤隼汰という存在だけ。信じられないでしょう? そんなこと」