突然空いてしまった時間をうめるため、私はレンタルDVDショップへと足を運んだ。今日、仕事が終わってから行こうと思っていたのだ。目的は、進藤さんの映画。進藤さんの、というか、彼が字幕翻訳を手掛けた映画。何作かタイトルを教えてもらったものの、どれも知らない映画ばかりだった。「まだ、あんまり有名な作品には携われていないんです」と言っていたけど、それでも構わない。進藤さんの言葉に触れたかった。ついこの間会ったばかりなのに、もう会いたい。唇に触れた感触が忘れられない。
 
 まだ午前中なのに、店内には結構人がいる。映画のタイトルをメモしたスマホを見ながら、ラックの間を行き来する。——あ。見つけた。これだ。
 
「ひなたさん?」
 
「え?」
 
 DVDを取ろうとした手を止め、声の主を振り返ると、そこには知らない男の人が立っている。誰だろう?
 
「あー、やっぱりひなたさんだ! うわー、久しぶり! 覚えてます? 俺、ニシダです。ほら、二次会の時に会った」
 
 全然、覚えが無い。この顔にも、ニシダという名前にも。二次会って、いつの、誰の……? 
 
「すみません……。あの、ひ、人違いでは……?」
「いやいや、えっ? ひなたさんですよね?」
「え、ええ……。ひなたは私ですけど……」
 そこは間違いないんだけど、でも。
「ほら。あ、ねえ隼汰元気にしてる?」
 ハヤタ? この人の言うハヤタは、私の知っている進藤隼汰のことだろうか。
「あの、ハヤタ……って」
 ニシダは、ええ? と大げさな顔で笑った。
「ハヤタだよ、進藤隼汰。あれ、もしかして俺、怪しまれてる?」
 やっぱり。進藤さんのことだ。この人、進藤さんの知り合いなのかな。
「いえ……。元気ですよ」
「そっか、なら良いんだけど。俺さ、仕事でしばらくこっちいるんだ。隼汰に言っといてよ」
 何で私が?
 そう言おうとしたのに、ニシダが発した次のセリフに私は凍りついた。
 
「あいつ、結婚してから付き合い悪いからさ。たまには俺らのとこにも顔出せ、って」
 
 ニシダは笑いながらそう言うと、じゃあね、と手を振り店内から去って行った。