「サロモン様ー」

 能天気な声が聞こえてくる。

「呼んだか?」

「はいっ! 今度うちの両親に会ってもらえますか?」

 なぜ会わねばならん?!

「……そのうちな、機会があれば」

「婚約したい人がいるって言ってあります」

 嘘だろ、私は王子だぞ?

「アニエス、その、少しマナーを学んでくれるか?あと勉強の方にも力を入れてくれ、留年は許されない……」

「えっ! マナーは授業でもやっていますよ! 少し褒められるようになったんですよ?」

「見習いたい淑女はいないのか?」

「それはやはり、セレスティーヌさんです」

 ……セレスティーヌさんだと?!

「身分が上の者を“さん”などと呼ぶな。それに親しい間柄ではないのに名前を呼んではいけない」

 少しきつい言い方ではあるが注意をする。

「学園にいる限りは身分は関係ないと習いました!」

「そう言う些細なところが学園の外に出ると悪く出るものだ……それでは貴族社会ではやっていけない!」

「大丈夫です! サロモン様と結婚すると私より身分が高い人は少ないですから!」

「そう言う問題ではないっ!」

 大きな声を出してしまった。周りに居るものがこちらに注目する

「どうしたの? サロモン様最近、情緒不安定というやつですか?」

 イラッとする頭痛がする。

「最近セレスティーヌさんも見掛けませんし……どうしたんでしょうね? サボリ?」

「……セレスの事を名前で呼ぶな“さん”付けもやめろ!」

 サロモンの言葉に驚き涙を浮かべるアニエス。

「どうしてセレスティーヌさんを庇うのよ! 私を愛してるんでしょ?」

 みんなの視線が痛い。

「すまない、しばらく君の顔を見たくない、その間教養を磨いてくれ」

 はぁっ。とため息を吐き立ち去るサロモン。


 学園を早退してセレスティーヌに会いに行くも会わせてはくれなかった。仕方がないので手紙を渡してくれるように頼んで邸を出た。

 頭痛が激しい……

 アニエスの顔を見ていられない……

 神様がいるのなら時を戻して欲しいほどだ……

 セレスティーヌと過ごしたあの幸せだった頃に。