「たしかに字幕だと疲れてしまいますもんね」

 記憶を失っても生活習慣は失われないものなんだ。運転する際、信号が赤に変わって停まると、左手は肘掛に置くのもそう。

 些細なことだけれど、昔と変わらないところを発見するたびに胸が高鳴る。

 次第に緊張を解けていき、遠いと思っていた二時間の道のりはあっという間だった。

 旭山動物園に到着したのは、九時半過ぎ。駐車場に入るや否や待ちきれない凛は「早く行こう」と急かす。

「凛、車から降りたらちゃんと手を繋ぐのよ」

「はーい!」

 返事だけは立派だけれど、本当にわかっているのだろうか。車の往来が激しいし、目を離さないように気をつけないと。

 しかし凛は私の言いつけをしっかりと守り、車から降りると遼生さんは手を繋いだ。

「りょーせー君、今日はずっと凛と手を繋ぐんだよ?」

「もちろんそのつもりだよ」

 笑いをこらえながら言った遼生さんは、後部座席のお弁当が入ったバッグを持ってくれた。

「碓氷さん、荷物は私が持ちますから」

 凛と手を繋ぎ、さらには荷物まで持たせるわけにはいかない。しかし遼生さんは「大丈夫だから」と言う。