「もしかしてそろそろお仕事が終わったパパも来るのかな? 邪魔しちゃってごめんね」

「あっ……!」

 どうやら彼は私が既婚者だと勘違いしたようだ。いや、子供がいたら当然そう思うはず。

 咄嗟に誤解を解こうとしたが、思いとどまる。

 だって遼生さんとは、彼が東京に戻ればなにも接点がなくなる。それなのに、わざわざ否定することはないのでは? むしろ誤解されたままのほうがいいのかもしれない。

 そんな思いが頭をよぎり、なにも言えずにいると凛が口を開いた。

「ううん、凛にはパパがいないからお兄ちゃんは邪魔じゃないよ。ね? ママ」

「えっ? あ……うん、そうだね」

 凛に言われたら、肯定するしかない。すると遼生さんは目を見開いた。

「パパはいないって……本当?」

「うん、本当だよ。凛、嘘つかないもん」

 少し怒り気味に言った凛に対し、遼生さんはすぐに「ごめんね、疑ったりして」と謝った。

「そっか、そうだったんだ。ごめんね、萌ちゃん。知らなかったとはいえ、不快にさせることを言ったよね」

「いいえ、そんな。大丈夫です」