「ごめんね、凛。ママ、ちゃんと凛のパパについて凛に話していなかったね」

「凛のパパはもういないんでしょ?」

 小首を傾げる凛に、首を左右に振って否定をした。

「ううん、ちゃんといるよ」

「本当!?」

 パッと目を輝かせた凛に、ズキッと胸が痛む。

 やっぱり口には出さなかっただけで、父親という存在を恋しく思っていたのかもしれない。

「凛のパパはどこにいるの?」

 目をキラキラさせる凛には忍びないけれど、ちゃんと伝えるべきだ。そう自分に言い聞かせて、どうしたら凛が傷つかないか、必死に頭の中で言葉を見繕う。

「凛のパパはいるけどね、会うことができない人なんだ」

「え、凛……パパに会えないの?」

 凛の表情はガラリと変化し、今にも泣きそうになる。

「ごめんね、凛。決してパパが凛に会いたくないってわけじゃないの。……全部ママが悪いの」

「どうして? ママはなにも悪くないでしょ?」

「ううん……ママのせいなの。パパと会わせてあげられなくてごめんね」

 遼生さんは私が妊娠していたことを知らない。いくら別れた後だといっても、ふたりの子供なのに、彼の了承を得ることなくひとりで出産した。

 だからどんなことがあろうと、絶対に遼生さんに凛の存在を明かすつもりはない。

 彼の家系が家系だけに、後継者争いなどに巻き込まれる可能性もある。凛にはただ、幸せになってほしい。

「でもね、凛のパパはすっごく素敵な人でカッコよくて、とても優しい人だったの。今も誰かのために一生懸命お仕事を頑張っているのよ」