「碓氷さん、お待たせしました」

 袋ふたつ分の商品を渡すと、なぜか遼生さんは複雑そうな表情で私から和泉君に目を向けた。

「ありがとう」

「こちらこそたくさんお買い上げいただき、ありがとうございます。……それと、さっきは本当にすみませんでした」

 彼の前で泣いてしまったことを改めて謝罪すると、遼生さんは首を横に振った。

「俺でよかったらいつでも話を聞くから、なにかあったら遠慮なく言って」

「は、い……。ありがとうございます」

 大丈夫かな。今の私、ちゃんと笑うことができている? 泣きそうな顔になっていないよね?

「それじゃ、また」

「ありがとうございました」

 深く頭を下げると、遼生さんはもう一度「またね」と言って店から出ていった。

 扉が閉まると同時に和泉君が声を上げた。

「ただの客にしては馴れ馴れしすぎない?」

「そう、かな?」

 なんて答えたらいいのかわからず、言葉を濁しながら「和泉君は焼き菓子だっけ?」と話を変えた。

「うん、母さんが久しぶりに会う友達に渡したいらしくて。おまかせで三つ用意してもらってもいい?」

「かしこまりました」

 話題が変わったことにホッと胸を撫で下ろして焼き菓子を選ぼうとした時、和泉君が文博さんに話しかけた。

「ねぇ、おじさん。あの碓氷って人、よくここに来てるの?」

「えっ!? あ、いや、まぁ……そうだな。うちのケーキを大層気に入ってくれたようで」

「ふ~ん……」

 そう言いながら今度は私に話しかけてきた。