私に紹介された遼生さんは素早く名刺入れを手に取り、和泉君に一枚差し出した。

「申し遅れました、こういう者です」

 受け取った和泉君は名刺を見て「あ、父さんが言っていたあのプロジェクトの……」と声を漏らした。

「現地調査の際に訪れた際に一度ケーキを買わせていただいたところ、大変美味しくて気に入ってしまいまして。通っているうちに萌ちゃんとも顔見知りになって」

「そうだったんですか。じゃあどうぞお先に買ってください」

「ありがとうございます。じゃあ萌ちゃん、さっき注文したものをお願いしてもいいかな?」

 遼生さんに言われ、「お待ちください」と返して準備に取りかかる。

 たしかタルト五個とチョコレートケーキとモンブランが二個、マカロンとシュークリームは五個だったよね。

 思い出しながら箱に詰めている間、なぜか和泉君は遼生さんを厳しい目で見つめていて、重苦しい空気が流れる。

 そんな殺伐とした雰囲気を打破するように、厨房にいた文博さんがやって来た。

「萌ちゃん、そろそろ休憩だけど……あれ? 碓氷さんに和泉君も来ていたんですね」

 遼生さんの姿を見て、文博さんは慌てて帽子を外して店に出てきた。

「いつもありがとうございます」

「いいえ、こちらこそ美味しいケーキをいつもありがとうございます」

 遼生さんに微笑みながら言われ、文博さんは心配そうにチラッと私を見る。

「萌ちゃん、あとはなにを詰めればいい? 手伝うよ」

「すみません、助かります」

 文博さんに手伝ってもらい、手早く商品を準備していく。