「えっ!? 萌ちゃん?」

 突然泣き出した私に遼生さんはギョッとし、急いでポケットからハンカチを手に取った。

「すみません、大丈夫です」

「ううん、使って。手で擦ったら傷がつくから」

 遼生さんは手を伸ばして、ハンカチで優しく私の涙を拭ってくれた。その表情からは心から私のことを心配してくるのが伝わってきて、ますます涙が止まらなくなる。

「ごめん、俺が変なことを言ったせいかな?」

「ちがっ……! 違います」

 そうじゃない。……ただ、遼生さんとの過去を思い出しすぎただけ。

「その、ちょっと……えっと、昔、ある人に同じようなことを言われたことがあって。それで……」

 あまりに彼が悲しげに言うから必死に言い訳を並べた。でも嘘は言っていない。遼生さんのことを思い出して涙が溢れてしまったのだから。

「だから気にしないでください」

「でも……」

 申し訳なさそうに彼は優しい手つきで涙を拭う。

 今ここで、彼との過去を打ち明けたら遼生さんは思い出してくれるだろうか。思い出した後も、こんな風に優しく接してくれる?

 なぜあんな別れ方をしたのか、これまでどうやって生きてきたのか、本人は目の前にいてすぐに聞くことができるのにそれができないのがもどかしくもある。

 もちろんそんなことを聞いたってどうにもならないことはわかっているけれど、記憶がない。それがこんなにも私を苦しめる。

 いっそすべて覚えていて、直接遼生さんから「愛想が尽きたから振った」とか、「やっぱり萌では、俺とは見合わなかったんだ」って言ってくれたら気持ちに区切りをつけられるのに。