だって遼生さんが関わっている商店街のプロジェクトが終われば、彼は東京に戻る。そうすればきっともう二度と会うことはないだろう。

 私たちはそれだけの関係のはずなのに、なぜそんな顔をするの?

 遼生さんがなにを考えているのかわからなくて、ますます混乱してしまう。すると彼は言葉を選ぶようにゆっくりと話しだした。

「萌ちゃんとはまだ知り合って間もないのに、なぜか会って話をするだけで幸せな気持ちになるんだ」

「幸せな気持ち、ですか?」

 思わず聞き返すと、遼生さんは照れくさそうに頬を指で掻く。

「変に思われるかもしれないけど、萌ちゃんといるだけで心が温かくなって、不思議とパワーが漲ってくるんだ。だから毎日でも萌ちゃんに会いたいと思う」

「あ、もちろんここのケーキは毎日でも食べたいほど美味いっていうのもあるけど」と慌てて付け足して言う彼に、胸の奥が熱くなる。

 遼生さんに振られたものの、心のどこかで少しは彼も私と過ごした日々に幸せを感じてくれていたと信じたかった。

 だって一緒に過ごした日々がすべて偽りだとは思えなかったし、少しずつ彼の心が離れていたとしても、たしかに私は遼生さんに愛されていたと思いたかった。

 でもそれは間違いではなかったのかな? 私と過ごして幸せだと感じてくれた瞬間もあったんだよね、きっと。

 一気に彼との幸せな日々が脳裏に浮かび、こらえきれずに涙が頬を伝った。