「いや、やっぱり買っていこう。それとチョコレートケーキとモンブランを二個ずつと、マカロンとシュークリームを五個ずつも」

「えっ? そんなにたくさんですか?」

 いつもはひとつかふたつしか買っていかないのに。もしかして手土産用だろうか。

「贈答品でしたら、ラッピングをいたしましょうか?」

「いや、大丈夫だよ。ただ、同僚にもここのケーキが美味しいって知ってほしくて。……だから、こっちにいる間は店に通い続けてもいいかな?」

「えっ?」

 どうして私にそんなことを聞くの? それは遼生さんの自由なのに。

 意味がわからずにいると、遼生さんは眉尻を下げた。

「俺が萌ちゃんの知り合いに似ているって言っていただろ? もしかしてその人のことを思い出すのが嫌で、俺とは会いたくないのかなって思ってさ」

「そんなことはっ……!」

 ないとは言い切れず、言葉が続かなくなる。だって遼生さんに会うたびに嫌でも昔の幸せだった頃の記憶を思い出してしまい、胸が苦しくなるもの。

 すると遼生さんはますます困ったように眉尻を下げた。

「なんとなくそんな気はしていたけど、やっぱりそうだったんだ。まぁ、似ているものは仕方がない。……でもその人と俺はまったくの別人だってことはわかってほしい」

「……はい」

 ある意味、彼の言っていることは正しいのかもしれない。同一人物でも遼生さんには私の記憶が残っていないのだから。

 複雑な気持ちで返事をすると、遼生さんはホッとした表情を見せた。

「よかった。萌ちゃんに『顔を見たくないから二度と来ないでください!』って言われたらどうしようって思っていたんだ」

 心から安堵しているのが伝わってきて戸惑う。