明子さん夫婦には子供はおらず、ふたりはまるで本当の娘以上によくしてくれている。

 そんなふたりの力に少しでもなりたくて、経営する洋菓子店の手伝いをしていた。

「それにしても萌ちゃんはすごいよな。英語ペラペラなんだから。おかげで外国人観光客も増えて売り上げが伸びたよ」

「一度買いに来てくれた人がネットに、英語で接客してくれるお店だって紹介してくれてから、毎日数組は外国人観光客が来てくれるものね。本当に萌ちゃんのおかげよ、ありがとう」

「いいえ、そんな。でも、少しでもお力になれてよかったです」

 明子さんと文博さんは無償で私を住まわせてくれて、食費や光熱費もいらないという。お金はいつか必ず必要になるから、その時にとっておくべきだとも言ってくれた。

 それに英語が好きで、翻訳の仕事がしたかったことも伝えると、この近辺では翻訳を事業としている会社はないから、フリーランスでやってみたらどうかと提案してくれた。

 さっそく私は調べて、パンフレットの翻訳依頼を受けることができた。隙間時間に進めることができるから、こうしてお店を手伝うこともできている。今の私にはぴったりな働き方だった。

「あら、大変。そろそろ開店の時間だわ。萌ちゃん、開店準備をお願いしてもいい?」

「わかりました」

 明子さんに言われてシャッターを開けに外に出ると、すでに数名のお客様が開店を待っていた。

「おはよう、萌ちゃん。今日はお昼に孫が来るっていうからケーキを買いに来たのよ」

「おはようございます。そうなんですね、会えるのは久しぶりですよね?」

「そうなのよ。半年ぶりだから楽しみでね。ケーキ、いっぱい買わせてもらうわ」

「ありがとうございます」