でも、そうすれば私は今までと変わらない生活を送ることになる。きっと実家暮らしを続けて仕事を探すことになる。

 家を出るたびに遼生さんに送ってもらったことを思い出し、ふたりで何度も挨拶に行ったことも思い出すよね。

 それだけじゃない、遼生さんとの思い出がいっぱいありすぎる。電車に乗っても買い物に行っても、映画館や水族館、公園に行くたびに彼のことを思い出すだろう。

 それではいつまでたっても遼生さんのことを忘れられない気がする。だったら、両親とはこのまま関係を絶ってひとりで生きてみる?

 遼生さんとの思い出がなにもない場所で、新しい生活をスタートさせるのも悪くない。

 それから私は携帯ショップでスマホの電話番号を変更した。そして駅の通路に北海道の観光PRポスターが貼られているのを見て、母方の叔母の存在を思い出した。

 叔母と母はあまり姉妹仲が良くなくて、叔母が母と祖父母の反対を押し切って、結婚歴が三回もある男性と駆け落ち婚をした。

 その次の年に叔母から年賀状が届き、中学二年生の時に母に連れられて叔母を説得するために北海道に行ったことがある。

 たしか商店街の一角で洋菓子店を経営していたよね。

 昔は母が大反対していたから、私は絶対に家族が反対する相手とは結婚しないようにしようと思っていた。

 それなのに好きになった遼生さんとは住む世界が違っていて、反対されても絶対に結婚したいと思っていた。