ううん、そんなはずはない。だって昨日までそんな素振りまったく見せなかったし、遼生さんの言葉がすべて嘘だったなんて信じたくない。

 メッセージを送ってきたってことは、電話にも出られるはず。すぐに遼生さんにかける。

 しかし電話越しに聞こえてきたのは、通話中の機械音。それは何度かけても同じだった。

 かれこれ一時間以上だ。誰と電話しているんだろう。

 長時間、床に座っていたからか身体が完全に冷え切っていた。ずっとここにいるわけにもいかないし、とりあえず出よう。

 マンションを後にして再び待ち合わせ場所へと向かう。やはり遼生さんの姿はなく、近くのベンチに腰を下ろした。

 これからどうしよう。ずっと改札口の前にいるわけにはいかないし、家にはもちろん帰れない。

 幸いなことに両親はまだ置き手紙に気づいていないようで連絡はないけれど、それも時間の問題だろう。

 遼生さんと合流したら、ふたりでスマホの電源は切って旅を楽しもうって約束していたのが嘘のようだ。

 別れを告げられたのに、実感が湧かない。まるで夢の世界にいるよう。

 その後も十五分置きに遼生さんに電話をかけるが、いつまで経っても通話中。かれこれ三時間以上は経っていて、少しおかしいと思い始めた。