私も内定をもらった会社に辞退を申し入れ、スマートフォンの名義も自分に変更済み。必要最低限の荷物もまとめて、着々と準備を進めてある。

『明日、卒業のお祝いに大きな花束を持っていくから』

「え、駆け落ちして新幹線に乗るのにですか?」

『それもそうだな、じゃあ小さな花束で我慢するよ』

「じゃあ楽しみにしてますね」

 私も遼生さんも、両親とは親子の縁を切る覚悟で家を出る。しばらくはお互いの貯金を使って日本全国を回り、住みたい場所を決めようと話している。

 行き当たりばったりだけれど、遼生さんと一緒なら不安などないし、むしろ楽しそうと思えるから不思議だ。

『それじゃまた明日、十時に東京駅で会おう』

 出発は土曜日。キャリーケースは昨日のうちに東京駅のコインロッカーに預けてあり、明日は怪しまれないよう、身軽で買い物に行くと言って家を出るつもりだ。

「はい、また明日。遅れないでくださいね」

『萌もな』

 名残惜しさを感じながら通話を切り、カーテンと窓を開けてベランダに出た。

 三月とはいえ、まだ夜は冷えて寒い。身震いしながら夜空を見上げると、たくさんの星が光っていた。

「ふたりで住むところは、もっと星が綺麗に見えるところがいいな」