「……あぁ、覚えているよ」

 私はその話をした時、遼生さんと将来は田舎でのんびりと暮らすのも悪くないと思ったの。

「仕事は選ばなければなんでもあるはずです。それに土いじりも好きで野菜も育ててみたいですし。……田舎でのんびりと慎ましく暮らすのもいいじゃないですか。楽しそうです」

「萌……っ」

 次の瞬間、遼生さんは力いっぱい私を抱きしめた。

「ありがとう、萌」

「フフ、なんで〝ありがとう〟なんですか? ふたりのことなんですから、お礼を言うのはおかしいですよ」

 彼の大きな背中に腕を伸ばしながら言うと、遼生さんはクスリと笑った。

「そうだな、おかしな話だな。……どこに住んだってどんな暮らしだってふたりで幸せになろう」

「はい!」

 それでも私たちは、最後までお互いの両親に認めてもらうために説得を試みた。でもどちらも認めてくれることはなく、私の大学卒業式の次の日、駆け落ちすることに決めた。

 大学の卒業式の日の夜、遼生さんから電話がかかってきた。一応廊下や近くに両親がいないことを部屋の外に出て確認してから電話に出た。

『萌、大学卒業おめでとう。せっかくの卒業式に行けなくてごめんな』

「ありがとうございます。気にしないでください、忙しいことはわかっていますから」

 駆け落ちすることに決めてから、遼生さんは周りに気づかれないように引継ぎの準備を進めてきた。