そこでやっとここが劇団四季のホール会場前だと気づいた。それは遼生さんも同じだったようで、目が合った彼の耳は赤く染まっていた。

「いっぱいいっぱいで、周りの視線なんて気にする余裕がなかった」

「私もです」

 互いにそう言った後、声を上げて笑ってしまった。


 それから遼生さんは、一年間働いたお金や学生時代に趣味でやった株で得たお金を利用して実家を出てひとり暮らしを始めた。

 合鍵を預かった私は、彼の「いつでも来ていいよ」という言葉に甘え、会いたいと思ったら頻繁に彼の家を訪れていた。

 仕事が遅い時はご飯を作って待ち、一緒に食べてそのまま泊まることも増えていって、ふたりで過ごせる時間が多くなった。

 遼生さんは付き合い始めてから私のことを〝萌ちゃん〟から〝萌〟と呼ぶようになった。呼び方ひとつ変わっただけで、本当に恋人になれたんだって実感したと話した時は、しばらく抱きしめられ続けて離してくれなかった。

 初めてキスをしたのは、テーマパークでパレードを見た後、打ち上がる花火の下でだった。そして身体を重ねた場所は、付き合って半年記念日に行った温泉旅館だった。

 満点の星空の下、一緒に部屋付きのお風呂に入って寝室も天井が窓になっていて星が見渡せるロマンチックな部屋。

 だから思わず初めて結ばれた日の夜に、互いのぬくもりを感じながら余韻に浸る中、「遼生さんって、すごくロマンチストなんですね」と言ってしまった。