遼生さんと一緒になるということは、碓氷不動産の後継者の家族になるということだ。

 その立場がきっと私も、なにより凛を苦しませる可能性がある。それを知っていながら素直になることなんてできないよ。

 それなのに彼の真っ直ぐな想いを拒否することもできない私は、なんて卑怯で弱虫なのだろうか。

 なにも言えずにいると、遼生さんは「困らせてごめん」と謝った。

「返事は急がなくてもいい。ただ、これからもずっと一緒に過ごしてほしいだけなんだ。それだけで俺は幸せだからさ」

 私もそうだった。遼生さんと一緒にいられるだけで幸せで、どんな生活が待っていようとも、彼がそばにいれば乗り越えられると信じていた。

 でも先に裏切ったのは遼生さんだ。記憶を失っているとはいえ、また同じ裏切りに遭うかもしれない。

「だめ、だろうか」

 不安げに聞かれ、拒否するべきなのに私にはそれができず、「だめじゃないです」と答えてしまった。

「よかった、ありがとう。……また今度、近いうちに三人で食事にでも行こう。凛ちゃんが起きたら食べたいものを聞かないとな」

 嬉しそうに話す彼を見て、明子さんたちに言われた言葉が脳裏に浮かぶ。