記憶を失ったということは、それもすべて彼の中で消えた出来事。それがこんなにも胸を苦しくさせる。

 かける言葉が思い浮かばず、口を結んでいると遼生さんはクスリと笑った。

「どうして俺がこの話を萌ちゃんにしたか、その意味をちゃんと理解してくれてる?」

「えっ?」

 意味ってなに? ただ、話の流れで聞かせてくれただけじゃないの?

 理解できずにいる私に、遼生さんは優しい声色で言った。

「萌ちゃんにはすべて知っていてほしいんだ。……俺、頑張って記憶を取り戻すから、待っていてほしい」

「それって……」

 待って、どういうこと? ううん、まさか、そんな。

 遼生さんの言葉の意味を理解しようと思えば思うほど混乱してしまう。

「冗談、ですよね?」

 だって信じられる? 彼は私のことを忘れているのだ。それなのに、再び想いを寄せてくれているというの?

 すると遼生さんは真剣な面持ちで口を開いた。

「冗談で言うわけないだろ? いや、冗談と思われても仕方がないか。……でもさ、誰かに惹かれるって時間とか理由とか、そういうのじゃないと思うんだ。出会った瞬間に〝あぁ、俺の運命の相手はこの子だ〟って感じるもので、実際に俺は萌ちゃんと初めて会った日に感じた」

 すぐには信じられない話に言葉が出ない。