「ふう、疲れた」

さくらはマンションに帰ってくると、ベッドに座り込む。

「連休明け初日で、もはやぐったり」

時計を見ると、22時だった。

今日は月曜日、今週はあと4日乗り切らなければならない。

(それにしても、遥は元気だなあ)

ワインバーでの、生き生きとした遥の様子を思い出す。

(ハワイから帰って来たばかりで、時差ボケだってあるはずなのに)

そこまで考えて、ふとさくらは以前、時差ボケ?時空ボケ?と笑い合った北斗との会話を思い出す。

(北斗さん、具合どうかな…)

時間は遅いが、メッセージを送ってみることにした。

『今、帰ってきました。具合はどうですか?』

すると、すぐに返事が来る。

『お疲れ様。遅かったね。疲れてると思うから、ゆっくり休んで。俺は、経過も良好です』

そっか、良かった、とさくらは思わず呟く。

だが、次のメッセージを打とうとして、手が止まる。

(なんだろう、どういうテンションで書けばいいの?今日の出来事とか、長々書くのって迷惑だよね。っていうか、私と北斗さんって、そもそもどういう関係なの?つき合ってる?いや、そういう話になった記憶はないなあ…)

頭の中でブツブツ考える。

(え、でもさ、好きとか、そういうことは言ったよね?お互い。うん、言ったはず。で、それから?)

冷静に思い出すが、いまいちよく分からない。

一緒にいた時は、まるで映画のような展開で色々な事が起こり、気持ちをぶつけ合ったが、こうやって日常生活に戻ってみると、どう接していいか分からない。

(素直な気持ちを言うと、会いたいな、北斗さんに。でも、そんなこと言えないしね)

散々悩んだ結果、さくらは、
『順調に回復しているようで良かったです。じゃあ、お休みなさい』
とだけ送った。

北斗からも
『お休み。明日も仕事、頑張ってね』
と返事が来る。

「なんだろう、この微妙な距離感。北斗さん、気持ちが冷めちゃったのかな?」

頭をよぎった考えに、泣きそうになる。

さくらは否定するように首を振って、ベッドサイドに置いてあった小瓶を持ち上げた。

ピンクの綺麗な花びらを見ると、ふっと笑みがこぼれる。

(大丈夫。私と北斗さんは繋がっている)

気持ちを切り替えて頷いた。