「お待たせしました!」

エントランスの脇に立っていた栗林に、遥が特上の笑顔で駆け寄る。

さくらも後ろで会釈をすると、栗林が笑顔を向けてきた。

「じゃあ、行こうか。俺の知ってるお店でもいいかな?」
「はい!もちろんです」

遥が、張り切って頷く。

さくらは、自分が答えなくてもいいから、案外気楽でいいなと思いながら、二人のあとをついていった。

「うわー、素敵なお店ですね」
「ああ。よく1人で仕事帰りにふらっと立ち寄るんだ。ワインバーなんだけど、料理も色々あって美味しいよ。さ、どうぞ座って」

カウンター席とテーブル席がいくつかの、照明がぐっと落とされた大人の雰囲気のそのお店は、明らかに遥とよく行くカジュアルなレストランとは違っていた。

メニューを見ても、横文字だらけでよく分からない。

「二人とも、苦手なものある?適当に頼んでもいいかな?」
「はい、もちろん!私もさくらも、何でも食べます!」
「…遥、そんなこと言って、遥の嫌いな納豆が出てきたらどうするの?」

小声で話したつもりが、聞こえたらしい。
栗林は、さくらの言葉に笑い出した。

「ははは!納豆はさすがに置いてないと思うよ」
「ですよねー?もう、さくらったら」
「ごめんって。一応ね、言ってみただけ」

栗林はスタッフを呼んで、次々と料理をオーダーしていく。

「それからワインは、女性にも飲みやすいものを頼むよ」

スタッフは、かしこまりましとうやうやしく頭を下げて戻っていった。