「ひゃー、思いがけず楽しみな夜になったなー!」

更衣室で着替えながら、遥は嬉しそうに鼻歌まで歌い始めた。

「遥、会社の人と外で食事なんて。社内で何か変な噂になったら、厄介じゃない?」
「そんなの、気にしなければいいのよ。だって、向こうから誘ってきたんだから。しかも!あの栗林さんよ?」
「あのって、どの?」
「何言ってんの、さくら。あんな長身イケメンなのに、浮いた噂の1つもない貴重な独身貴族!もう、社内の色んな女子が狙ってるのよ?」

へえ、そうなんだ、と相槌を打ちながら、さくらはロッカーを閉める。

「へえってもう、相変わらずね。え?ちょっと、さくら!メイク直さないの?」
「うん。だって勤務終わったし。なんならメイク落としたいくらいだけど」
「はあー?ここからが勝負メイクでキメる時でしょうよ?」

遥は、鏡の前を陣取って、せわしなく手を動かしてメイクを整える。

「遥、私はいいけど、栗林さんが待ちくたびれて帰っちゃうかもよ?」

そう言うと、いやー、それは大変!と、遥は渋々メイクを切り上げた。