1時間ほど経った頃、滝田が栗林と一緒にエレベーターを降りて出口に向かうのが見えた。

ちょうど来客の波が途切れていたさくらと遥は、お辞儀をしながら見送る。

すると受付の前を通り過ぎた滝田が、くるっと振り返り、ありがとな、とさくらに手を挙げた。

「いえ、どうぞお気をつけて」

さくらは、にっこりと見送った。

エントランスで滝田を見送った栗林が、受付に戻ってくると、興奮したようにさくらに話しかける。

「高山さん、ありがとう!滝田社長、なんか今日はご機嫌でね。今までずっと渋ってた案件も、すんなりOKしてくれたんだよ。君が気を利かせてくれて、気分が良くなったっておっしゃってた。本当にありがとう」
「いえ、そんな。大したことでは」

さくらが軽く手を振ると、栗林はカウンターに身を乗り出してきた。

「高山さん、良かったら今夜、お礼に食事をご馳走させてもらえないかな?ちょっと話したいこともあって」
「え?いえ、そんな。お礼なんて結構ですから」
「でも話もしたいし。良かったら君もどうぞ」

ふいに話を振られて、遥は直立不動になる。

「え、よろしいのでしょうか?!」
「ああ。君達、仲良さそうだもんね。一緒にどうぞ」
「ありがとうございます!」
「ちょ、ちょっと、遥…」

さくらが遥の袖を引っ張ると、遥は、お願い!今回だけは!と、耳元で囁きながら目で訴えてくる。

「じゃあ、定時になったらエントランスで待っててくれるかな?なるべく急いで下りてくるよ」
「はい!かしこまりました!」

遥が、満面の笑みで答える。

じゃあ、あとでと、栗林は片手を挙げて去っていった。