ある程度名の知れた「鈴鹿商事」の受付で働き始めて、さくらも遥も1年になる。

受付嬢というとどうしても、来客に目を付けて、隙あらば取り入ろうとするイメージを持たれがちで、さくらはとにかく、必要最小限の会話で済ませようと心掛けていた。

だが遥は、どう思われようと気にしない!と言って、イケメンに対してはもの凄く愛想が良くなる。

それでなくても、遥はパッと目を引く華やかな美人で、向こうからさりげなく、携帯番号を書いた名刺を渡されることもあった。

何人かとおつき合いしてみたが、結婚まではいかなかったらしく、今も絶賛彼氏募集中だ。

「遥って、結婚したらこの仕事辞めるの?」

ふと気になって聞いてみる。

「あったりまえでしょ?っていうか、受付嬢ってそういうもんじゃないの?」
「え!結婚したら辞めなきゃいけないの?」

さくらは、考えてもみなかった発想に驚く。

「いけない訳じゃないけど。でも聞いたことないよ?結婚後もここ続けてるって人。それに会社としてもさ、やっぱり受付は若い子の方がいいんじゃない?」
「そ、そんな…。若い子って何歳まで?」

えー?と遥は首を傾げた。

「先輩から聞いた話では、確か30過ぎて受付やってる人は今までいなかったって」

えっ!と、さくらは絶句する。

「じゃあ、30前には辞めなきゃいけないの?」
「いや、もちろんそんな強制的に辞めさせられたりはしないよ。でもほら、暗黙の了解みたいなやつじゃない?」

さくらは思わずうつむいて考え込む。

(今23歳だから、あと7年足らずか…。どうしよう、結婚なんて考えてないし。そうすると、転職か。今から準備しておかないと)

その時、スーツ姿の男性がエントランスに入ってくるのが見え、さくらは、慌てて笑顔を作り、挨拶した。