「いらっしゃいませ」
「あ、11時にアポ取らせて頂いた、三島物産の香川です。マーケティング部の佐山さんをお願いします」
「三島物産の香川様ですね。かしこまりました。少々お待ち頂けますか?」

笑顔でそう言うと、さくらは、マーケティング部の内線番号表を確認して佐山に電話をかける。

「受付の高山です。三島物産の香川様がいらっしゃいました。はい、はい、承知致しました」

両手でそっと受話器を置くと、再び笑顔で話しかける。

「香川様、お待たせ致しました。すぐに佐山が参ります。そちらのソファにお掛けになって、もうしばらくお待ち頂けますでしょうか?」
「分かりました。どうもありがとう」

しばらくすると、佐山がエレベーターから降りて受付に近づいて来るのが見え、さくらは微笑みながらそっとソファに目配せした。

「香川さん、お待たせしました」
「あ、佐山さん。お久しぶりです。お忙しい所、お時間頂きまして…」
「いえいえ、こちらこそ。ご足労頂きありがとうございます」

二人がエレベーターに乗り込むのを見届けると、さくらは手元のメモ帳の『三島物産、かがわ様、マーケ、さやまさん』と書いた文字に二重線を引く。

すると、隣に座る遥が、ぐっと顔を近づけてきた。

「ね、今の人、かっこいいね!初めてだよね?三島物産って、いつももっと年配の人が来るのに」
「はーるーかー。またすぐそうやって、目を付けるんだから。だめだよ?仕事中なのに」
「分かってるって!でもさ、あの人、さくらと話しながら、まんざらでもなさそうな感じだったよ?」
「そんな訳ないでしょ?営業スマイルだって」
「じゃあ、なんで私じゃなく、さくらに話しかけたのよ?私だって、ウェルカムな雰囲気で待ってたのに」
「だから、たまたまだってば」
「よーし!次は負けないわよ」

さくらは、やれやれとため息をつく。