北斗は、込み上げてくる想いに胸が詰まった。

話し終えた祖父も、じっと押し黙っている。

どれくらいそうしていたのだろう。
やがて、ふうと息を吐き出した祖父が、顔を上げた。

「なあ、北斗。お前、子どもの頃にあの桜の木の下で、泣いている女の子がいたって言ったの、覚えてるか?」
「あ、ああ。覚えてる。でも、あの時おじいは信じてくれなかったよな?」
「そうじゃ。だって、あの桜に近づける訳がないと思っていたからな。だが、今は違う。お前は確かにその女の子を見たんじゃろう?」

北斗は、思い出しながら頷いた。

「あれは俺が、確か10歳の頃だったと思う。小さな女の子が泣いていて、どうしたの?って聞いたら、おばあちゃんがいなくなったって。だから手を繋いで、下の道まで連れて行ったんだ。そしたら、大きな声で女の子を探してるおばあさんがいて。その子、おばあちゃんだ!って嬉しそうに駆け寄って行ったんだ。二人が抱き合ってるのを見て、俺も、ああ良かったなって思って…。そうだ!そのおばあさん、確かその子のこと、さくらって…」

思わずハッとする北斗に、祖父はゆっくりと頷く。

「その女の子、幼い頃のさくらちゃんだったんじゃ。やはりあの子には、あの桜の木が見えている」
「ちょ、ちょっと待て。だってあの桜が見えるのは、うちの血を引く人間だけだって、さっきおじいが…」
「北斗、もう少しだけさっきの話の続きがある。二人の間には、男の子と女の子が生まれたんじゃ。男の子は、うちの先祖、そして女の子の方にも、その血が受け継がれた子孫がいるんじゃと思う」
「つまりそれが…」

さくら…

祖父は、静かに頷いた。

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