「我が神代(かみしろ)家に古くからあるあの桜の木は、推定樹齢千年以上、つまり平安時代から生きていた桜じゃと思われる。にも関わらず、世間には知られていない。なぜなら、あの桜の木は、普通の人には見えないからじゃ」
「見えない?え、どういう意味だ?」

北斗が眉根を寄せる。

「あの桜が見えるのは、うちの血を引く人間だけじゃ。他の人には、あそこはただの大きな木が生い茂っている場所に見えるらしい。だから、近づくことも出来ない。北斗、お前だって、誰かがあの桜の木の近くにいるのを見たことがないじゃろう?誰かが、あの桜のことを話すのだって、聞いたことがないはずじゃ。あんなにも見事な桜の木を、誰も話題にしない。つまり、見えていないんじゃ」
「そんな、なんで…」

声がかすれてしまう。

だが、信じられない話だと思いながらも、この祖父の話は真実だと北斗は確信していた。

「これはな、昔、わしのじいさんから聞いた話じゃ。じいさんは、更にそのじいさんから聞いたらしい。そうやってこの家にずっと伝わってきた話じゃ。あの桜は、遥か昔、うちの先祖が結界を張った桜なんじゃと」