「あれ? 櫻井?」
「・・・」
「おい。無視すんなよ。櫻井だろ。」
「吉川・・・」
「俺のこと忘れるわけないよな。俺の女奪っておきながらすぐ振りやがって。なぁ!」
「朋美、悪い、先に帰ってて。」
壮はコソッと私の耳元で言った。
「うん・・・でも大丈夫? 」
「ああ、大学の時の同級生。だから大丈夫。」
「わかった。先に帰ってるね。」
「彼女さんはお帰りかな。そうか、聞かれちゃまずいか。」
私は壮に帰れと言われたが、壮が心配でその場から動けなかった。
「いまさら何が言いたい。お前に何を言ったか知らないが俺はあんたの女とは付き合っていないし、言い寄って来たのはあの女だ。」
「ふーん。まあなんとでも言えるわな。そういやお前はゲイだから付き合えないと言って俺の女を振ったんだよな。それなのにしっかり女と付き合っているじゃないか。やっぱりゲイっていうのも嘘かよ。あーそうか、バイなのか・・・この好きもんが! 」
「なんとでも言えばいい。俺はお前と話すことはない。」
「俺はお前のこと許してないからな。櫻・井・君! へへへ」
「知るか。行こう朋美。」
「朋美ちゃんか・・・へへへー・・・またねー」
「朋美、ゴメン。イャな思いさせちゃったね。」
「なんか薄気味悪い人ね。何があったの?」
「あいつの女がどうもあいつと別れたくて、ウソをついて俺がちょっかい出したとあいつに言ったみたいなんだ。俺はそんなことしていないし女のことまったく知らなくて、それなのにいきなりあいつに殴られた。それを見ていたその女は焦って俺に謝りに来たんだけど、俺は追い返した。それでもその女は俺に付き合って欲しいってしつこく言うから、俺はゲイだから付き合えないって言った。そうしたら女はあきらめたんだけど、あの吉川は女に振られたことが気に入らなかったからしつこくその後もなにかと俺に因縁をつけてきてた。」
「そうなんだ・・・とばっちりってやつね・・・」
「イャだな・・・あいつこの辺りに住んでんのかな・・・朋美・・・気を付けてね。」
「えっ? 私は大丈夫だけど・・・」
壮は後ろを気にしながら遠回りをして、新しく引っ越したマンションに2人で帰った。