いつか、緋織先輩が俺を意識してくれるまで。
それまで直接的な告白を避けていた代償を今日くらっている。
もう一生届かないんだな。
誰にも気付かれないまま、俺の恋心はひっそりと姿を隠すだろう。
「そんな呪いなら、解けないでほしいな……」
緋織先輩の返事はこうだった。
表情は全然嬉しそうじゃなくて、むしろ悲しみを帯びているような。
……あ、れ?
緋織先輩が望んでいるのは、こういうことなんじゃ……。
「でも、スイくんはお父さんじゃないから。
一生一緒なんて、無理なんだろう、ね」
「……は、?」
「あはは……」
頭が真っ白になる。
なんで笑うんだ。
代わりすら俺にはできないのか。
だったら、どうしたら……。
「……よしっ」
パンっ!
緋織先輩が自分の頬を叩く。
「暗い雰囲気は終わりにしよっ! 私、やっぱり明るい方が好きなんだっ!」
彼女は一瞬で明るい笑顔を作り、立ち上がった。
「今から、いつもの緋織先輩だよっ! はい、スタート!」
スタートって言われても。
変わり身が早すぎる。今までも、こうして調子を戻していたのが感じられる。
「スイくん、スイくん」
肩をちょんちょんとつつかれたので、顔を上げたら。
「呪いは、私からかけられるように頑張るね!」
そんな、意味深な言葉を残して。
夕飯の支度をしに、彼女は部屋を出ていった。
完全な一人きりの空間ができると、つつかれた肩が熱を持ち始める。
「いや、なんなの……」
なんなのあの人……。
俺フラれたんだよ、な?
フった相手にあんな言動、正気じゃないだろ……。