“ 特定のスポーツのプロを目指すことはないのか、そんな記者の質問に彼女は「あんまり、特別な一つのことは作りたくないんです。それがダメになったら絶望するだろうし」と答えた。

 なら特別な意中の相手もいないのかと茶化すように聞いてみたところ、乾いた笑いのみが返ってきた。”



「記者がとてつもなくウザいからですか?」

「なんでやねん。それ俺や」

「じゃあ合ってますね」

「ちゃうやろ~彗くん! ここの受け答え、なぁんか『藍月緋織らしくない』と思わへん?」



 緋織先輩らしくない?


 誰が決めたんだよ、そんなこと。


 確かに一見彼女は元気で笑顔で明るくて、十分素敵な女性だ。


 でも人間なんだから影を持っていて当たり前で、そんなところもあっていいんだよ。


 ……なんか、緋織先輩のことをわかってますって言われてるみたいで気分が悪い。



「出た出た。反抗的な目付き。
あのなぁ、言うとくけど。これをお蔵入りにしたのは俺じゃなくて緋織ちゃんやねん」

「……緋織先輩が?」

「そうや。『私らしくないこと言っちゃって読まれるのが恥ずかしいので』って言ってたけど……まぁ、嘘やろな」

「……」



 当たり前に、信憑性のある情報ではないんだけど。


 特別な一つは作らない――それが本音だったとしたら。


 単にスポーツの話に限るのかもしれない。


 だけどどうしても、他のことも考えてしまう俺がいた。