「ねぇスイくん、一つ良いことを教えてあげる」
新聞部の部室へと足を向けたとき、取り巻き①が俺を呼び止める。
さっきから何か言いたそうにしていると思ったら。
「成世先輩はね、どんなに面白いことが目の前で起こっても、スマホで写真は撮らないのよ」
「……? はぁ」
どこが良いこと?
全く興味のない情報を与えられた。緋織先輩以外の話を聞いて損した。
「何か見られたくないものでもあるんじゃないかと思ってね」
「……見ればいいってことですか」
「スイくんにとってはどうでもいいかもしれないけれど。結果的に、緋織を守ることには繋がるんじゃないかしら」
「頭の片隅にでも残しておいて」と片手を振りながら、取り巻き①は去っていく。
結果的に緋織先輩を守れる……。それが本当なら、まぁ、覚えておくことに越したことはないか。
ポカンと口を開け、取り巻き①の消えていった道を目で追っていた緋織先輩がこっちを向いた。
「よくわかんないけど、しぃちゃんの言うことは間違いないよ!」
「はぁ、そうですか」
緋織先輩が言うならそうなんだろう。
「まだちょっと複雑だけど……行ってらっしゃい。あの、終わるまで待ってていい?」
「先帰っていいですよ」
「ううん。野球部でも覗いてみようかなって」
「なら迎えにいきます」
「ほんと? 待ってるね!」
え、なにこれ恋人の会話みたいでテンション上がる。
緋織先輩と約束をして下校する。
そんなごほうびがあるだけで、俺は簡単に舞い上がった。