「……よかった」
ほっと胸を撫で下ろすしぃちゃんに笑顔を向ける。
今の話、少し茶番めいたところはあったけど。
しぃちゃんにとっては勇気の必要な告白だったのかなとも思ったり……?
しぃちゃんがメニュー表を差し出してきた。
「お詫びにここのお代はわたしが持つわ。なんでも頼んでちょうだい」
「ほ、ほんとっ!?」
なんでもとか言われちゃったら止まれなくなっちゃうよ!?
「詩歌……当然、オレの分も払うよな?」
便乗して大ちゃんがしぃちゃんの肩に手を乗せる。
「……いいわよ。今日だけ特別ね」
私と大ちゃんの目が同時に輝いた。
テーブルにメニュー表を広げて二人で覗く。
「っしゃあぁーー! 野球部男と緋織の胃袋なめんなよ!?」
「えっ大ちゃん、なに頼む、なに頼む!?」
「これと、これと」
「じゃあ私はこっちとっ……」
「…………早まったかしら」
盛り上がる傍ら、しぃちゃんが頭を押さえているのに私達が気付くことはなかった。
ふ~、お腹いっぱい!
途中まで大ちゃんと同じ帰り道を通り、大ちゃんの家の前でお別れする。
会計で財布を開けるしぃちゃんの顔面蒼白ぶりにはさすがに罪悪感が芽生えてしまった。
また今度何か考えとかなきゃな……。
と、家まで後数百メートルの道を歩いていたら、スマホが着信をしらせた。
「もしもし!」
『どうも』
聞こえてくるのは愛しい人の声。
「えへへっ、元気っ?」
『っふ、はい、元気ですよ』
お盆は四宮家にも予定があるから、私だけ先に帰ってきている。
スイくんがこっちに戻るのは一週間後くらいだったかな。
あっという間に終わる夏休みなのに、スイくんがいないだけで時間の進みが遅い。
「早く会いたいなっ!」
『はい、俺もです。さすがに緋織先輩の家じゃ一緒に寝るのは難しそうですよね』
「へっ!? なっ、なっ、夏休み限定だよあれは!」
『あれ、そうだったんですか。残念』
特別感があったから耐えられたものっていうか。大体あのときは、色仕掛けうんぬんを考えてた時期だったしっ……。
まんまとしぃちゃんの策略に乗っかってただけだから、もうできそうにないよっ!
「…………おっ、お母さんは、うるさくしなかったらたぶん怒らないと思うけどっ」
『ちょっと気まずいですよね』
「そうだよっ!」
逆にスイくんはよく耐えてたね!?
『でも二人きりのときは別ですよね』
「っ!?」
『お父さんの部屋だとちょっとあれなので、するとしたら……』
「……まさか、わ、私の部屋っ!?」
汚くはないけど、お世辞にも整頓されているとは言い難い私の部屋。
まだスイくんを呼んだことはない。
「~~っ、それより! スイくんに報告したいことがあってっ……」
強引に話を変える。
か、片付けは、後でしておくとしてっ。
お父さんの話、お母さんといっぱいできたんだよって……。
口を開いたとき、自宅はすぐ目の前で。
ドアの前に、すらりとした背格好が立っていた。
「――あ、緋織先輩」
「スイくんっ!?」
スマホを耳に当てたスイくんがこちらを見る。
その姿は間違いなく、この間お別れしたはずのスイくんだった。
「帰ってきてたの!?」
「早く緋織先輩に会いたくて。俺、もう緋織先輩と一緒にいないと無理です」
たたっと駆け寄ったら、大きく手を広げてくるから。
迷わずそこに飛び込んだ。
ぎゅう、と苦しいくらいに抱き締めてくれる。
「はあ、数日ぶりの緋織先輩……。足りなくて禁断症状が出るとこでした」
「ほ、本当に数日ぶりだよ……?」
たった数日でそんなことになっちゃって、この先大丈夫なのかな……?
「――ただいま、緋織先輩」
この温かい香りの男の子は、紛れもなくただの四宮彗くん。
これから話す言葉に大好きな笑顔を向けてもらうため、私は彼を見上げた。
おわり
どうも~~、長谷川です。
㊗️🎊終わりました~~✌️≡✌️≡✌️
前作で初溺愛ものを書いたので、今作は初同居ものにしてみました!
今回も書きたい要素をたくさん入れて書いたので、楽しかったです☺️
明るくて元気で笑顔の可愛い女の子が実は闇を抱えている、とか
恋愛関係にならない男女混合トリオ、とか
癖が詰まっているので、楽しんでいただけたら嬉しいです!
以下表紙のデカバージョンです。
文字がラブコメっぽいので、画像はシリアスっぽくしてみました。
最後までお付き合いいただき誠にありがとうございました!
長谷川あかり