「え……。おれと輝子さん、つき合ってないよ」

「つき合ってなかったの?」

「うん」

「でも、チカくんはママのこと好きだったんだよね」

その瞬間、チカくんは飲んでいたアイスコーヒーを盛大に噴き出した。
あたしにはかからなかったものの、チカくんの真っ白なシャツには薄茶色の染みがぽつぽつと浮かび上がっていた。

ぷ、と笑いだしそうになるのを堪える。

どうしてちょうど乳首の位置に染みができるかな。
しかもサイズ感までちょうどいい。

チカくんはおしぼりで乳首、もとい染みを擦りはじめた。
位置がジャスト乳首なことに気づいたのか、眉を寄せてきまり悪そうな顔をする。
耳の縁が赤い。

「お客様、おしぼりお持ちしましょうか」

店員に声をかけられたチカくんは、口をぎゅっと結んで首を振った。
照れ隠しのつもりだろうけれど、はっきり言って挙動不審な客にしか見えない。
怯んだ店員はそそくさと立ち去った。

ああ。まったくもう、この人は。

仕方ないなあ、とあたしはバッグの中を漁る。
たしかポーチに入れてたはず。