「娘がいること、ママに隠されてたんでしょ。未亡人とコブつき未亡人じゃだいぶ違うよね」

「隠されてないよ。おれがそういうことを訊かなかったから、言われなかったってだけの話だから」

「なんで訊かなかったの」

下手に触れたら、ママとの関係が終わると思ったから?

そう言おうとしたけれど、意地悪な気がしてやめた。
グラスに残ったわずかな水とともに、言葉を腹の底に流し込む。

はじめてうちのアパートで会ったとき、あたしを見たチカくんは大きく目を見開いた。



――輝子さんの娘って……。名前は? 歳は?

――いち花です。二十一になりました。

――そうか……。よかった。輝子さん、ひとりぼっちじゃなかったんだ。



そう言ってちいさく微笑んだ瞼は赤く、あたしの胸は奇妙に痛んだ。
動揺も涙もちっとも隠さないチカくんの笑顔は、あまりに直球だった。

大人の男の人がこんなふうに泣いたり笑ったりするなんて、知らなかった。

「そういうのはデリケートなことだから」

「そうだけど、つき合ってたら訊くものじゃないの」