いると言っても、学生のあたしが綴と暮らせるわけはもちろんなく、会えるときに会って、おはよう、おやすみを送りあうという具合。

ママはそういうことには寛容だったけれど、さすがにしょっちゅう外泊はできないし、いまだってママの遺骨が家にあるのに外泊する気にはなれない。
納骨してもそうだろう。
学生でいる間はそこまで自由にはできない。
誰に怒られるわけでなくても。

こういうものは染みつくんだろうな。
あたしが母親をママと呼ぶのも、ママが「お母さんって呼ばないで。ママがいい。ママじゃなきゃ返事しない」と拗ね続けたからだ。
すっかりママと呼ぶことが染みついてしまった。

たしかにママには「お母さん」という言葉が似合わなかった。
それは無責任だとか非常識だってわけじゃなくて。

「で、どうだった? 二回目の食事は」

「まだ訊くの?」

うんざりしてため息をつくと、綴は頭をぽんぽんと撫でた。
綴の涼やかな目を見つめながら、あたしはチカくんの目を思い出す。

虚ろで行き場がなくて、なにかを諦めたような瞳。
雨に打たれてびちょびちょの段ボールの中で、くぅんとすすり泣く子犬だって、もう少し生きる気力のある目をしてる。