――ばかじゃないの。


綴がそういうことをするような人種だと思わなかったあたしは、ぶわっと目が熱くなって、血液がぐんぐん循環して、だけど涙は引っ込めて、別れたらどうするの! と綴をグーで殴った。

そしたら泣きながら塗り絵でもするから大丈夫。
そう言って、綴は穏やかな視線でアベリアを愛でた。

あたしは振り上げかけていた二発目のグーを下ろした。


――ライブの打ち上げに来ない?
関係者の人に誘ってもらったんだけど、友達も呼んでいいって言われたの。
けっこういいお店でするみたいなんだけど、タダでいいって。
大丈夫、バンドのことは知らなくても問題ないよ。
むしろそっちの方がいいみたい。


友達のかえちゃんに誘われて、タダ食いラッキーのノリで参加した、名前もジャンルもメンバーの人数すらも知らないバンドのライブの打ち上げ。
そこで綴とあたしは出会った。

きわどいVネックから谷間丸出しの女の子から逃げてきた綴は、まるで親しい間柄のように「やっと来た!」とあたしの隣に座った。

うん。遅くなってごめんね?
事態を察したあたしは箸を置いて、綴の頬を舐め上げるようにゆっくりと目を細めて言った。

もちろん谷間女はあたしを睨み、あたしは菩薩ように微笑み返した。