胸下までのびた濡れ羽色の綴の髪の毛が揺れて、ちらちらとあたしをくすぐる。
負けじとあたしも綴の腰や腹を、爪先で(なぶ)る。

はじめて会ったときは髪の長い男なんて、と思ったのに、いまではすっかりその艶やかで馬の尾のような髪が揺れるたび、ああ。きれいな男だ、と胸を打たれてしまう。

あたしの語彙が少ないからきれいなんて一言で括ってしまうけれど、もしあたしが詩人だったら綴をテーマに壮大な詩が書けるだろう。
そしたらその詩集に深紅のリボンをかけて、鍵のついた引き出しの奥にしまう。
世界と共有なんてしてあげない。

「いち花は俺の腹ばっかり触るな」

「だって」

だって、あたしのだから。
指先をのばして、そうっと花弁を撫でた。

綴の脇腹に咲く、一輪のアベリア。

白線だけで描かれたそれは、まるで生まれたときからそこに咲いていたように、真っ白な肌を寝床にして静かにたたずんでいる。


――なんでホワイトタトゥーにしたの? 色、入れないの?


タトゥーをいれたとき、そう訊ねたあたしに綴は「色づけちゃうのは、もったいないから」と答えた。

綴がタトゥーを入れたのは、あたしが脇腹を撫でながら「なにか入れたら映えそうだね」となにげなく言った三日後で、アベリアがあたしの誕生花だと知ったのはタトゥーの腫れが引いた頃だった。