一方の稚沙たちは、先ほどの会った中臣御食子の話していた場所に向かうため、男の子を引き連れて再び宮内を歩いていた。
 すると遠くの方で、1人の大柄な男性が何やら誰かを探している様子が見えた。

「ねぇ、あの人きみのお父さんかな?」

 稚沙は相手の男性に指を刺していう。
 この男の子や、先ほど会った青年から聞いた内容からして、この人物はわりと特徴が似ている。

 すると今度は相手側の男性も、遠くから稚沙達の姿を見つけたようで、突然に全速力でこちらに向かって走ってき始めた。

 男の子も、その大柄な男性を見るなり「おっとう〜」と呼んだ。どうやら彼がこの子供の父親で間違いないようだ。

(良かった、この子のお父さんだわ!)

 父親は2人の前までやってくると『ぜーはーぜーはー』と息を切らしながら、されでも何とか声を絞り出すようにして、稚沙に声をかけてきた。

「す、すみません。私が仕事の最中にうっかりこの子を見失ってしまって...本当に助かりました」

「本当に良かったです。この子のお母さんの出産が近いそうで、お父さんに連れられて小墾田宮に来ていたとか?」

「はい、そうなんです。妻の出産が近く、中々この子を構ってやれず、すっかり拗ねてしまいまして。
 それで何とか寂しさを紛らせればと思い、一緒に連れてきていたんです」

「まぁ、そうなんですね。それで宮の中ではしゃぎすぎて、お父さんと離れたしまったんですね」

「さようのようです。本当に今回は助かりました!」

 父親はそういって、何度も何度も稚沙にお礼をした。

 一方男の子の方も、寂しさの反動から父親に抱きついていたものの、徐々に元気を取り戻してきたようで、最後にはカラカラと笑い出していた。


 そうこうしていると、父親の男性が「では、私たちはこれで失礼します」といって、男の子を連れてその場をすたすたと離れていった。

 また男の子な方も別れ際には「おねえちゃん、ありがとう〜!」と嬉しそうに話しながら行ってしまった。

(とりあえずは、無事に解決してなによりだわ...)


 それから稚沙は急いで椋毘登の待ち合わせ場所に向かうことにした。
 恐らく今頃は椋毘登も待ち合わせ場所についていて、稚沙がくるのを待っているはずである。

(椋毘登、さすがに怒ってるかな...)