そこで稚沙は意を決して椋毘登に打ち上げることにした。

「最近、女官の人達が椋毘登のことを噂しているのを聞いて、それに古麻も椋毘登が相手が私1人とは限らないじゃないかって」

「はい!?」

「だって、私そこまで美人じゃないし、私よりも綺麗な人から良い寄られたら、椋毘登そっちにもいっちゃうんじゃないかって!」

「おい、おい、いきなりなんて話をし出すんだよ」

「私は椋毘登しかいないし、どうしたら良いのか分からなくなっちゃって〜!」

 稚沙は、その後たどたどしながらも、何とかことの経緯を椋毘登に伝えることが出来た。

 それを聞いた椋毘登は、余りの彼女の内容に酷くたまげた様子で、彼女の話を聞いていた。

 そしてやっと内容を理解できたようで、ふと壁から背を離し稚沙の目の前に立った。

「で、稚沙はどうして欲しいんだ?」

(え、どうしてといわれてると)

「え、えぇ〜と、どうして欲しいとかいわれると...うーん、やっぱり私はやだな、椋毘登が他の女の人の元に行ってしまうのは」

 稚沙はそう答えてから、恐る恐る椋毘登をの方を見る。

 すると椋毘登は真っ直ぐ彼女の顔を見つめてくる。

(く、椋毘登?)

 そして何を思ったのか、ふと笑みを見せるなり彼は続けていった。

「分かった。稚沙が嫌ならそんなことはしないよ」

「え?」

 今度はそれを聞いた稚沙の方が、思わず目を丸くする。

「確かに権力のある奴なら、妻以外にも妾とか持ってるんだろうけどね」

「ほ、本当!」

「あぁ、俺はそんなものにはさほど興味もないしね。大体、古麻も古麻だ。俺を何だと思ってるんだ...」

 稚沙は椋毘登が最後まで話すよりも先に、思わず彼に抱きついた。

「よ、良かったよ〜この話を聞いた時から、私本当に心配で心配で」

 それから稚沙はその場で、わんわんと泣き出した。今までずっと自分の感情を抑えていた為、椋毘登のその言葉を聞いて一気に気持ちが溢れてしまったようだ。そしてさらに力を込めて、彼にしがみつく。

「ち、稚沙、分かったら、力を緩めてくれ!俺が苦しい!!」

 そういってから、椋毘登は何とか稚沙を自分から離した。

「でも、私本当に嬉しくて」

 そんなまだ半泣き状態でいる彼女の頭を軽く撫でてから、椋毘登はいった。

「だから、もうお前もそんな心配はしなくて良いから」

(椋毘登……)

 そして少し彼女が落ち着いたの確認してから、椋毘登はふと別の話を持ちかける。

「ところで話は変わるけど、今度一緒に出掛けないか?」

「え、出掛ける?」

「そ、もうすぐ蘇我の住居のそばで蛍が見られるから、一緒にどうかと思って?前にいっただろ?今度どこかに出かけようって」

 それを聞いて稚沙はハッとした。それは恐らく前に歌垣に行った時に椋毘登が話していたことだろう。