数日後のこと、今日は椋毘登が小墾田宮にやってくるということで、稚沙は彼がくるのを今か今かと待っていた。

「まずは、椋毘登の本音を聞かないと」

 元々彼と一緒にいられるようになっただけでも幸せだったので、椋毘登との関係性を不安視することなど全く考えもしていなかった。

(でも、今回の件があったおかげで、椋毘登の本音が聞ける良い機会になるかも)

 とはいっても、もし椋毘登が先日聞いた話のように、他の女性とも考えているといわれてしまった場合、自分はどうするべきなのだろうか。

 身分的には彼の方が上なので、はっきりそういわれてしまえば、稚沙にはどうすることも出来ない。

 というより、最初の時点で確認すべき事柄ではあったのだが、何分恋愛経験の乏しい彼女なので、全くの盲点であった。

(でもこれまでも、椋毘登に他の女性のいる雰囲気はまるでなかった。いや、もしいれば逆に隠すものかしら?)

 稚沙が自身の頭の中であれやこれやと考えていると、向こうから椋毘登らしき人物が歩いてきていた。

(わぁ、嘘、椋毘登がきちゃった!)

 椋毘登は稚沙のそんな状況などつゆ知らず、普段と変わらない様子で彼女の前までやってくる。

「へぇ、稚沙が出迎えてくれるなんて、珍しいな」

 だがこの場で話せるような内容ではないので、ひとまず場所を移した方が良いだろう。

「く、椋毘登...ち、ちょっと良いかな?」

「うん?」

 稚沙はいきなり椋毘登の腕を掴むと、余り人気のない場所まで、彼を強引に引っ張って行く。

「お、おい、稚沙、いきなりどうしたんだよ?」

 椋毘登は訳の分からないまま、ただただ稚沙に引きずられるようにして、彼女について行った。

 そして人気のない所まで来ると、彼女は念入りに辺りをキョロキョロと見渡す。とりあえず、近くに人は誰もいなそうである。

(よし、ここなら大丈夫そうね)

「おい、本当にどうしたんだよ」

 椋毘登は、彼女の行動が全く理解出来てないようで、ひどく不思議そうにする。

「えぇ〜っと、ちょっと椋毘登に聞きたいことがあって...」

「聞きたいこと?」

「う、うん」

 椋毘登はとりあえず稚沙から自身の腕を離し、そばの壁にもたれて、思わず腕を組んで見せる。

 彼もとりあえずは、彼女の話は聞いてくれる様子だ。

(よし、じゃあ話さないと...あれ、でもどうやって話を打ち出したら良いんだろう)

 稚沙は感じの内容を、椋毘登にどう伝えたら良いのか分からない。

「えぇ〜と、あ、あのね...」

 稚沙は思わず指をもじもじさせる。冷静に考えてみると、何ともいいづらい内容なので、稚沙も困ってしまった。

「稚沙、一体何なんだよ。俺だってそこまで暇って訳じゃないんだぞ!」

(ど、どうしよう...このままじゃ椋毘登を怒らせてしまう)