けれど、今になって思う。

 こうしてそばにいる選択をしたのは、間違いではなかったのだと。あのとき、多少強引なユイ先輩に押し切られてでも想いを繋げあったのは、正解だったのだと。

 でなければ、今この瞬間は存在しなかった。

 こんなに穏やかな人生の最期を迎えることはなかっただろう。

「ユイ先輩。私ね、すごく楽しかったです。高校に入学してから、本当に毎日充実してました。明日が来るのが楽しみで、夜寝るときも朝起きるときも、いつも未来のことを考えてたんですよ。明るい朝のことを」

「うん」

 分かち合う温もりが、いずれどんな思い出としてユイ先輩のなかに残るのかはわからないけれど。それでも今だけは、世界中の誰よりも幸せに包まれている。

 私は、そう確信していた。

「……本当のことを言えばね、まだまだ足りないんです。もっと、ずっと、これから先もずっと、こうやって先輩と過ごしていたかった。生きていたかった」

「……俺も、鈴には、ずっと生きていてほしいよ」

「うん。でも、ユイ先輩の心に私が棲んでいるなら、そんな私の叶わない願いも叶うような気がしますね。散ることなく、永遠と先輩のなかで咲き続けられるかも」

 すごくつらい。涙が止まらない。けれど、これほどまでに強く死にたくないと思うことができるほど、私はこの世界がとにかく大好きだったのだ。

 ユイ先輩がいるこの世界が。

 ユイ先輩と過ごした時間のすべてが。

 大好きな人がいる。その小さな真実が、私の世界を鮮やかに彩ってくれていた。