そのきっかけが私との出逢いだというのなら、それほど嬉しいことはない。

 だって、この世界でいちばん、私が心を向けた相手だ。

 今までもこれからも、未来永劫、ずっと変わらず想い続ける相手だ。

「──はなまるです、ユイ先輩」

 先輩がそのことに気づいたと同時、私もこの一ヶ月で気づきがたくさんあった。

 けれどそれは、きっと今、伝えるべきことではない。

 そう判断して、私はユイ先輩へと満面の笑みで両手を伸ばした。

「ご褒美です。私のこと、抱っこしてください」

 思いもよらない提案だったのか、ユイ先輩はきょとんとした。

 しかし、すぐにおかしそうに苦笑しながら私の方へ戻ってくると、いとも簡単に私のことを抱き上げる。非力そうな見た目のわりに、やっぱり先輩も男の人だ。

 そのままぎゅうっと腕のなかに閉じ込めて、ユイ先輩は優しく目元を緩めた。

 少し痩せすぎた体は、女性としての魅力はないかもしれない。けれど、こうして先輩に抱き上げてもらえるのなら悪くないとも思う。何事もやはり捉えようだ。

「これ、俺のご褒美なの?」

「だって先輩、前に甘えてほしいって言ったじゃないですか」

「言ったね。覚えてたんだ、鈴」

 ──先輩のことならなんでも覚えていたいから。

 心のなかでそう応えて、私はお返しのつもりでユイ先輩にぎゅっと抱きついた。

「これがご褒美じゃ、嫌ですか?」

「いや、まったく。むしろ最上級のご褒美だね」

 ユイ先輩は私の頭に口づけながら、満足気に告げる。

 一ヶ月離れていたのが嘘のように、心が幸せに満たされていく。

 当初はユイ先輩を傷つけないために、私の想いを伝えるつもりはなかった。