「うん。すべてではないけどね。でも、鈴が色をつけてくれたんだよ。鈴と出逢って──鈴があまりにも綺麗に輝いてるから、俺の世界も一緒に染められたみたい」

「私、が……っ」

「そう。鈴が俺の世界を変えてくれたんだ」

 気づけば、頬に涙が伝っていた。嬉しいとか悲しいとか、そんなひとつの感情で表現できるような気持ちではなかった。ただただ、感極まってしまった。

 心が打ち震えて、それ以上なにも考えられなくなる。

 こんなに嬉しいこと他にあるだろうか。大好きな人の世界に、このうえなく影響を与えられるなんて。だってそれは、私がここに生きたなによりの証になる。

「君に泣かれると、俺はどうしたらいいかわからなくなるんだけど」

 少し困ったように眦を下げて笑いながら、先輩が細い指先で私の頬を拭った。

 ユイ先輩の手は、男の人とは思えないくらい綺麗だ。

 けれど、ずっと鉛筆を握っているせいで中指のペンだこがひどい。

 そんな画家の手が、私は好きだった。

 ユイ先輩の存在をそのまま表しているようで、大好きだった。

「……ねえ、鈴。鈴は俺に生きてって言ったでしょ」

「っ、はい」

 それは覚えている。朧気ではあるが、強く強く願って、先輩へ伝えたことだった。

「正直あのとき、よくわからなかったんだ。俺はそもそも……なんていうのかな、生きてるって感覚がわからなくて。死にたいわけではないけど、なにもない俺がこうしてこの世界に命を得ている意味ってなんなんだろうって、ずっと考えてたから」