「笑うなよ」

 ブランは頭を抱えたまま、まるで友人に言うように言った。

「もっちろん」

 ガブリエルは笑顔で答える。

「その笑顔が、嘘くせえんだよお前は」

 ブランは言いながら、ガブリエルの耳元で声を潜めてつぶやくように言った。

「お嬢ちゃんは、どうやら俺に惚れちまったらしい」

「え…………?」

 ガブリエルは思いもよらぬブランの告白に、一瞬目を丸くした。
 そのまま、複雑な表情で眉間に皺を寄せ、ブランをじっと見つめる。

「んだよ、笑わねーのかよ」

「笑うなって言ったのはそっちでしょ」

 (おもんぱか)って言えば、ブランはため息を零した。

「お嬢ちゃん、それで泣いちまった。こんな老いぼれに一目惚れしちまうなんて、可哀想だ」

 ブランもかつては、身分差の恋をした一人だ。
 幼い頃にその様子を見ていたガブリエルは、子供ながらに彼の苦悩を知っている。

 それに、エレーナ嬢は泣いていた。
 だからこそ余計に、その話を笑うなんて出来なかった。

「それ、レオンくんは……」

「知らないだろう。さっきも相当ショックを受けていたようだった」

「……だよなぁ」

 ガブリエルもため息をこぼす。それから、どーすっかなーと後頭部をガシガシ掻きながら、ソファにドスンと身を預けた。