ヴィルコーン王国の王立学校は、客室も完備していた。
 最初こそ驚いたが、5日も滞在すれば自分の部屋のように居心地が良くなってくる。

 ガブリエルは備え付けのキッチンで湯を沸かし、王子自ら紅茶を淹れた。
 その間、護衛のブランは部屋の入口に立ち、"護衛"としての仕事をまっとうしている。

 と言っても、ブランも人であるし、ガブリエルは喋喋(ちょうちょう)しい王子である。 
 ブランはいつも、ガブリエルが話しかければ面倒くさがりながらも答えるし、ガブリエルもまた彼とのお喋りを楽しんでいた。

 ガブリエルはティーポットを手に、ソファに腰掛ける。
 カップに紅茶を注ぐと、その香りを嗜みながら、目だけでブランの方へ視線を向けた。

「婚約者ちゃんと、何があったのさ?」

「はい?」

 ブランが怪訝な視線をガブリエルに向けた。

「絶対何か知ってるでしょ、ブランは外にいたんだから」

「……まあ」

 ブランはため息まじりにそう答える。
 それと同時に、ガブリエルはカップをかちゃんと音を立ててテーブルに置いた。
 そのまま立ち上がると、背の高いブランを見上げるように目の前に立つ。

「何、何? やっぱり婚約者ちゃんを泣かせちゃったのは、ブランなわけ?」

 ガブリエルは文字通りブランに詰め寄った。
 ブランはやれやれと頭を抱える。

「それをガブが知って、どうするんだ」

「どうって、……ほら、リベルテ王国の落ち度で婚約者ちゃんを泣かせちゃったなら、ちゃんとお詫びしなきゃ」

 もっともらしい理由を並べて、ガブリエルはブランを問いただそうとした。
 王子という立場を使えば、ブランは本当のことを言わざるを得なくなる。ガブリエルは、わざと大げさに言ったのだ。