「あのーレオン様、私、ガブリエル王子の護衛さんに、お礼を伝えに行きたいのですが……」

 ここで私が退室して、レオンとマリーを二人にしてあげたい!
 急展開だが、ない話ではない。

 ナイスアシスト、私!

 と、思ったのに。

「それなら、私が伝えておいたから大丈夫だ。エレーナ、寮に戻ろう」

「え……?」

 その発言に面食らっていると、レオンは私に向かって爽やかな笑みを向け、右手を差し出した。

「お喋りができるほど回復したとはいえ、君はあんなにぼうっとしていたんだ。寮に戻る間に何かあったら、私がどうにかなってしまいそうだから」

「私は一人でも大丈夫です。レオン様、私はガブリエル王子の護衛さんに会いに……」

「エレーナ。目の前に婚約者がいるというのに、君は他の男の話をするんだね?」

 レオンは意地悪く悲しげな瞳をこちらに向ける。

 やばい、これ、マリーの視線も怖い……!

 慌てて隣を向くと、案の定マリーは複雑そうな笑みを浮かべていた。

「エレーナ様、レオン様と共に。私も、エレーナ様に何かあったら悲しいですから。ご友人として」

 その言葉は、本心なのか嫉妬なのか曖昧で、私は戸惑ったような笑みしか浮かべられない。
 唇をもごもご動かしていると、マリーの目が細められる。

「レオン様、エレーナ様をよろしくお願いたします」

 マリーは花のような笑顔でレオンを見上げていた。
 そんなふうに無理やり笑うマリーに申し訳なくて、胸がズキンと痛くなる。

「ああ。ほら、エレーナ。行くよ」

 レオンに手を取られ、立ち上がった。
 去り際、マリーに小さく「ごめんね」と伝えると、彼女は首を小さく横に振って「また、いずれ」と口元を動かした。