「私、エレーナ様のこと勘違いしていました。きっとこの先、学園生活の中ではあなたに虐げられて生きるんだって思ってて、だから……」

「ううん、いいの。実際、転生してるって気付かなかったら、マリーの悪い噂信じちゃってただろうし」

 ヘヘッと笑って言うと、マリーも困ったように微笑んでくれた。

 本来なら、マリーの悪い噂を信じた私が、王太子を横取りしようと目論むマリーから王太子を守るという名目で、マリーの継母に利用されるのだ。
 しかし、本当はマリーは潔白。悪いのは継母で、私、エレーナも悪側についたとして没落していく。
 ゲーム内では、そんなストーリーが展開されていたはずだ。

「あの、エレーナ様。不躾ながら、聞いてもよろしいでしょうか?」

「何……?」

「エレーナ様は、レオン様のことはどう思っていらっしゃるのでしょう?」

 マリーは言葉を選びながら、慎重に聞いてくる。

「レオンは――」

 幼い頃から、彼の婚約者と言い聞かされて育ってきた。
 彼もまた、そう私に接してきた。

「――戦友、かな」

 共に厳しい場面を乗り越えてきた、戦友。それが一番しっくりくる。

 別に何かと戦った訳では無い。けれど、令嬢教育やレッスンの場で、幾度となく彼は私を助けてくれた。
 婚約者であるが故だろうが、実際レオンのお陰で乗り越えられた場面も多い。

 彼にとってもまた、私はそういう存在であると思う。

「恋愛感情は、……無いのですか?」