「羽生くんの彼女って、料理上手そうだよね。」

いつものように料理の本を読んでいた羽生に葉月が言うと、羽生は葉月の方を見た。
「…彼女?」
全くピンときていないような顔で言った。
「いつもお弁当…」
「あぁ…そういうことか。」
羽生はやっと理解したようだった。
「彼女なんていない。」
「えっそうなの?じゃあお弁当誰が作ってるの?お母さん?」
「………」
羽生は面倒そうに少し考えてから、首を横に振った。
「え〜じゃあ誰!?絶対彼女でしょ。」

———ふぅ…

羽生は手にしている本に向かって小さく溜息をつくと、パタンと閉じて葉月の方を見た。

「荻田さんこそ、彼氏(おとこ)いるのに他の男に必要以上に構わない方がいいんじゃない?」

「え…」
葉月は一瞬、羽生の言った言葉が理解できなかった。
「…え!?なんで知ってるの!?」
葉月の顔面いっぱいに動揺が広がった。
「あぁ、やっぱ秘密だったんだ。」
羽生が淡々とした口調で言った。
「べ、べつに秘密にしてるわけじゃないよ。あえて言う必要も無いっていうか…」

———ふっ

動揺する葉月を見て、羽生は笑った。
「ひとには色々質問してくるくせに、自分のこと聞かれたら、そんな動揺しちゃうんだ。」
「え…べ、べつに…!」

「かわいいな、荻田。」

羽生は不敵な笑みを浮かべてそう言うと、また本を開いて静かな羽生に戻ってしまった。

葉月の顔は赤くなり、心臓はドキドキと早いリズムを刻んでいた。
(いや、これは彼氏がいるって知られてると思わなかったからびっくりしてるだけで…)

(ぜっっったい陰キャじゃないでしょ。何気に荻田って呼び捨てにされたし…)

(てゆーかマジでなんで知ってるの!?)