(はにゅうはづき…なんか…ちょっと韻踏んでる感…)
葉月は結婚した場合の名前を想像してみた。

「荻田に大事なこと言っとくけどさ。」

「…大事なこと?」

「俺の名前…」
「晃一?」
「ちがう。上の名前。」
「え?はにゅうくん…?」
羽生(はにゅう)って書いて羽生(にわ)だから。」 

「……………え?」

羽生(にわ) 晃一(こういち)

「嘘でしょ…?」

「本当。」

「え、だって先生とかも“はにゅう”って言ってない?」
「誰かが“はにゅう”って読んだのを面倒で訂正しなかったらそのまま定着した。」
「一年の時からずっとってことー?」
「うん。」

葉月は羽生の胸の中で肩を震わせて笑った。
「そんなことあるー?」

葉月が笑って顔を上げると、そのまま羽生は葉月の顔を捕らえてキスをした。

「かわいい」

葉月はまた頬を赤らめた。

「…ニワ…くん、て…なんか言い慣れないから変な感じ…」
「晃一って呼べば?」
「晃一?」
「葉月」
「…なんか耳がくすぐったい。」
葉月ははにかんだ笑顔を見せた。

翌朝
「おはよう、羽生(はにゅう)く…あ…」
朝食の会場で葉月が言った。
「…ごめん、癖で。」

「べつにいいよ。荻田さん。」
羽生はわざとらしく丁寧に葉月を呼ぶと、葉月の耳に唇を近づけて囁いた。

「のこりの夏休みで慣れさせるから。」

羽生がいつもの不敵な笑みを浮かべた。
葉月は耳まで赤くなりながら、のこりの夏休みとそれから先のことを想像した。

(なんか全然…予想がつかない…)

葉月は困ったように笑った。
楽しそうな予感だけ信じることにした。



fin.